動機、狂気、制約

 ジャンプ SQ. (スクエア) 2008年 01月号 [雑誌]のインタビューにこんなやりとりがあった。

――じゃあ先生にとって露伴は動かしやすいキャラなんでしょうか?
荒木 そうですね、常に動機も異常で面白いですし。彼にはお金とか名誉とかそんなものには関係なく、ただ芸術のために、作品のために動くんです。

 荒木作品、特に露伴の出てくる第4部はキングへのオマージュに満ちているが、一方でキングの小説における人物の動機付けはこれと真逆である。金とか(下記引用参照)子供や妻の為だとか、あるいは超自然的存在が狂気で人間を餌場に誘い込んでいるだとかいった描写が多い。

キングのいう「経済ホラー」とは、経済的理由から登場人物たちが行動の制約を受け、そのことによって自らを窮地に追いやらざるをえなくなる、そんな物語のことをいう。「悪霊の棲む家」では異常に家賃の安い家がそれに当たるし、「シャイニング」では《オーバールック》が異常な場所であることが判明しても、管理人の仕事を投げ出した後の経済的困窮を考えると留まらざるをえないトランス一家の窮状がそれに当たる。吹雪はたしかにトランス一家をホテルに閉じ込めたが、吹雪の前から一家はホテルにつなぎとめられていたのである。

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 所帯じみた動機だとちびっこに納得してもらえないし、あまりキャラクターが無知で浅はかだっただけのように見えてしまうと感情移入を促せない。かといってダンサーインザダークのように、機械仕掛けの神ならぬ悪魔が出てきそうなご都合主義的トラブルの連発でもよくない。動機と制約の作り方で共感の間口を広くするという工夫か。
 ちなみに、死刑執行中 脱獄進行中 (愛蔵版コミックス)ではキング風動機のオンパレードだったりする。やはり、週ジャンではちびっこの一見さんのための配慮がいる(id:torly:20080117#1200600681)という側面が大きいのだろう。