天野喜孝の絵が欲しかった

 昔、スクウェアエニックスと合併するよりもずっと前、Final Fantasyシリーズを含む作品がスーパーファミコンでリリースされていた頃、天野氏の画集を買いたいと思っていた。
 ゲームをよく遊ぶ子供は大体ゲームキャラの絵に関心を持っているだろうが、その中でも天野氏は特異な存在だった。FF5まではゲーム中で使われるグラフィックから乖離したキャラクターを描いていて、それゆえというべきかそれなのにというべきか、ゲーム然とした画風からかけ離れた描き手が少なからぬ子供に認知されていたのだ。図工や美術の教科書に載っている訳でも、子供向け雑誌で漫画の連載を持っている訳でもないイラストレーターとして、これは今考えても特別なことだった。
ラッセンとは何の恥部だったのか - ohnosakiko’s blog

megmama 2008/04/21 11:12 ラッセンは何の恥部か、興味深く拝読いたしました。私は何の恥部かは分らないですが、アールビバンが恥部にしたのではないか・・と思っております。もともとラッセンインパクトってエアブラシのそれと重なるんじゃないかなぁと、サブカル系のヤンキーだった(笑)私は思うのです。
画風云々は置いといて、当時の恥部としてのラッセンは、今は天野喜考が受け継いでいる気がするのですが、いかかでしょうか?

ラッセンとは何の恥部だったのか コメント欄

 数年前におたく系ニュースサイトで展示会商法の話題が盛り上がったことがあった。きっかけはおそらく秋葉原近辺でアダルトゲーム系の原画複製の押し売りが横行したことだと思うが、その流れで当然天野氏にも話が及んだ。その時に、自称関係者の知り合いという方が書いたテキストを読んだ。曰く、アールビバンで絵を売るようにしたのは本人が頼んだからである。病気療養の為に金が必要だが、画集は売れず、ゲームやアニメの仕事では一時的な報酬しか得られないからだと。
 ずっと天野氏の画集が欲しくて、本屋へ足を運ぶ度に探していた。2回だけ見つけたけど、そういう時に限ってあまり使える金がなくて見逃さざるを得なかった。ジグソーはあるところには安定してあるが、ゲームネタの絵はあまりない。そこでしょうがなく攻略本や設定資料集を買ったり、広告にイラストが大きく使われていることを期待してゲーム雑誌を買い続けたりしていた。1度、FF7が発売されてしばらくしてから大きな本屋でエウリアンに遭遇したが、B5ぐらいのちっちゃい複製で16万もした。とてもじゃないが、お年玉が最大収入の学生にホイホイ買える値段ではなかった。やがてネット通販の発達で、色々な商品が家にいながらにして買えるようになったものの、その頃にはもう使える金がなかった。あるいは、新品の商品は市場から消えうせていた。
 売り文句に因縁をつけて、あれが世界に通用するアーティストだとかちゃんちゃらおかしいという人がいたけど、芸術かどうかなんて関係ない。好きだから欲しかったに決まっている。それ以外に理由はない。しかし自称関係者の知人の発言を信じるなら、何もかも間に合わない。何というか、ただただ悲しかった。

 ゲームのサウンドトラックもイラストを見る貴重な機会だった。おそらくFF全シリーズ中最も天野喜孝の絵を前面に押し出したデザインであるFF5サウンドトラックのブックレットにて、作曲者の植松氏が「子供の小遣いでも買えるように、なんとかして安く押さえた」という旨の発言をしている。今思うと、安く押さえた結果として簡素なブックレットになり、それがイラストをそのまま全面に載せたデザインに繋がったように思える。子供が芸術に触れる機会がないだとか、おたく界に芸術を見る目はないだとかいった話を聞くたび、天野氏のことを思い出す。画集を手に入れられなかったことを思い出し、FF5のサントラのブックレットを思い出す。