日本に社会的企業はない

 先日見たNHKのワーキングプア特集でイギリスでの取組みが紹介されてたが、それをみてえっと思った。番組の説明では、社会的企業は政府からの出資で開始あるいは維持されるように見えたのだ。日本には(NPONGOや一部ベンチャーはともかくとして)そんな精度はない。日本に社会的企業はない!! 小さな政府の本場みたいなイメージのイギリスにはあるのに何故?

社会的企業の定義

 …というのは単なる煽りとして、では一体社会的企業、社会的ビジネスの定義とは何か。何故か日本語版wikipediaでは議論が避けられているが、英語版のいくつかの記事Social Enterprise Coalitionでは一応の定義が試みられている。

The simplest definition of social enterprise - as business trading for a social purpose - allows for a wide range of interpretations and there is still an ongoing debate among practitioners and academics over the exact definition of social enterprise.

http://www.socialenterprise.org.uk/Page.aspx?SP=1878

 ええそうですね。
 色々書いているけど、大雑把によく出る共通項を纏めると

  • ダブルボトムラインの充足
  • 社会に役立ち、よい変化を与える業務

が必要らしい。ちなみにダブルボトムラインとは、利益(貸借対照表の最下行)とミッションの両立を指しているようだ。つまり儲からない、続かない企業は駄目。ここがNPOや無償のボランティア、寄付で成り立つ事業とは違うということにしたいらしい。
 しかしそんなことを言われると、大概の企業は革新・社会での存在感・役に立つ事のどれかか複数を社是に掲げているではないか。では資本主義の世界は社会的企業で一杯なのか? そんなことないからみんな社会的起業しようぜって言ってるのではないのかしら。それにダブルボトムラインにしても、紹介例に寄付が入っている企業は複数ある。よく国内の例として挙げられるフローレンスなんてその上、一昨年度メインの病児保育が赤字、全体でもマイナスだし。これじゃあ、多くの定義では実質講演やコンサルで食ってる人がやってるボランティア事業になってしまう。また、いくら立派な社是を掲げ、寄付抜きで収益をあげていても、従業員や顧客の扱いがよろしくないとされる会社は枚挙に暇がない。

日本に社会的企業がない本当の理由

 冒頭のイギリスの例では、政府が若者の就業対策のために設立された企業に資金提供していた。目安の一つとして、出資者がどのように企業姿勢を評価しているかを見るといいかもしれない。
wikipedia:社会的責任投資
 例えばSRI(社会的責任投資)。先ほどの例で言えば従業員を薄給で酷使する企業はネガティブスクリーニングにひっかかり、フローレンスは教育・育児・女性労働者やシングルファザー支援でポジティブスクリーニングで選択されうる。
 これは必ずしも社会的企業ではないが、先ほどのSocial Enterprise Coalitionの事業例を見ると、大半の会社が普通になんとかファンドやなんたらローンから融資を受けていることが分かる。特に気になるのがリストの一番上のRookhope Inn。地方不況による主な収入源だった工場の閉鎖で荒廃した村を観光で再生、といういかにも儲からなさげなプロジェクトなのに、母体トラストの資金源は大半が寄付ながら、それ以外にしっかり融資を受けている。
 特に注目に値するのはLIF(Local Investment Fund)の存在か。今でいうOffice of the Deputy Prime Ministerによって始められたと書いてあるので、政府主導のソーシャルエンタープライズへの金銭的援助策の一つだったのだろう。ほかにも、Futurebuilders辺りが政府から援助されたそれ系専門の金融団体として有名らしい。結局アレか、日本に社会的企業が少ない理由は他のスモールビジネスが困難なのと同じ、つまり金融機関からの援助が受けにくいからということなのかしら。

結論

 新銀行東京は潰れればいいんじゃないかな

おまけ

 ウィキペさんを見ていると、social entrepreneurとかsocial entrepreneurshipといった語句が文献に現れるようになったのは1960〜70年代らしい。それはまあ、関連語として出てくるものを見ていると分かるんだけど、英国では80年代頃から盛り上がったようだ。一方、日本で社会的起業が盛り上がり始めたのは大体2000年代中ごろ、具体的には小泉政権後期頃から。サッチャリズムとか、第三の道とかについて調べてみるとちょっと楽しいかもしれない。
 というかほぼど真ん中の記事があった。
営利・非営利 ? | 町田洋次の社会起業家・エッセンス
 こうしてみると一応、新銀行東京設立も単なるポピュリズム的愚策でなく、海外の事例を勉強して日本の経済を助ける先進策になる、と考えた結果だったことが分かる。丁度タイミングも符合するし。うん、このエントリを書くのに要ったのと同じ程度の勉強だけど。
The Eighteenth Brumaire of Louis Napoleon - Wikipedia